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7話 的の強力な結界を破る異常な威力

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-10-22 12:27:29

 どうやら的を撃ち抜く必要はないらしい。レイニーは、先ほどまでぴょんぴょんと跳ねて喜んでいたが、周りを見渡し、呆然と立ち尽くしている団長の姿に気づいた。やらかしてしまったことを悟り、レイニーは「えへっ♪」と可愛らしく笑って誤魔化した。

 団長が驚いているってことは、本当にやらかしたらしい。団長が先ほど放って当てた的が、レイニーの目に入った。その的は、撃ち抜かれていない……。それに、団長は『的あて』と言ってたなぁ……。レイニーは、自分の放った魔法の威力を改めて認識した。

 的自体には、通常では破壊できないほど強力な結界が施されていた。的を破壊されると、それを交換する手間やコストがかかるためだ。

 しかし、今の問題は的を破壊したことではなく、その強力な結界を破り的を破壊できるレイニーの魔法の威力が異常であり、脅威に値するという点だった。戦闘になったとして、相手が結界やバリアを張ったとしても、レイニーの魔法はそれを容易く貫通してくるということになる。

「レイニー様、ま、魔力を抑え威力も抑えて下さい、危険ですので……。それにしても見事な命中精度ですな、ど真ん中を撃ち抜いておりましたぞ」

 団長は、顔を引き攣らせながらも、レイニーの腕前を称賛した。その声には、驚愕と、わずかな焦りが混じっている。団長は、レイニーのやる気を削ぐことなく、その秘めたる実力を存分に出して欲しかった。だが、魔力は抑えてもらわないと困る……誤ってルナ様へ当たってしまっては一大事になってしまう。団長の視線が、かすかにルナの方へ向けられた。

 やっぱりやりすぎちゃったらしい……。レイニーは、団長の反応を見て、そう結論付けた。「でもでも、初めての魔法で的に当てたのって凄くない?」レイニーは、心の中で得意げに思った。

 レイニーに問題はないと判断した団長は、ルナの方へ向き直り、指導を始めた。その様子は厳しいものではなく、優しい表情をして丁寧に教えているのが見えた。団長の声は穏やかで、ルナの動きに合わせて細かくアドバイスを送っている。それを確認したレイニーは、安心をした。

 一人にされたレイニーは、持ち前の好奇心と探究心が強く、普通に的あてをするわけがなかった。「俺って詠唱していないよな? そもそも詠唱を知らないし……」レイニーは、先ほどの魔法の発動を振り返り、イメージしただけで魔法が発動したことに改めて気づいた。

「ならば三つ同時に放てないかな?」

 レイニーはそう思い、隣の的に当てるイメージで魔法を放った。見事にバシュと同時に三つの火球を放ち、それらは同時に同じ的に命中した。

「よし。これで、三つ同時に魔法が放てるのがわかったぞ♪ 威力の調整というか、イメージの調整が出来たし……次は……残りの三つの的に、同時に当てるイメージかなっ♪」

 レイニーは、自分で次々と課題を見つけ、まるでゲームをプレイするかのように、一人で楽しそうに魔法を試していた。その瞳は、新たな発見への喜びに満ちている。

 パシュ……バフッと的に当たる音が、一度に、しかし連続して鳴り響いた。

「よしっ♪ やったぁ! わぁい〜。成功しちゃったぁ〜。えへへ♪」

 レイニーが一人で盛り上がり、ぴょんぴょんとジャンプをして喜びを表現した。順調に課題を見つけ、次々とクリアしているが、レイニーは魔法の常識をまったく知らないのだ。

「次はぁ〜、えっと……三つ同時に撃てて、三つの的に当てたからぁ〜。今度は、遅延させてみよっかなっ♪」

 レイニーは、またもや次の課題を勝手に見つけ、一人で楽しそうにしていた。その顔には、尽きることのない探求心が浮かんでいる。

 同じ様に構えると、三つの小さな火球がレイニーの手のひらの前に現れ、手のひらを中心として小さな円を描くようにくるくると回っていた。「わぁ〜これ、魔術師みたいで格好良いかも〜♪」と心のなかで思い、ニヤニヤしていた。

 的に当てるイメージをして魔法を放つと、パシュ、パシュ、パシュと、間隔を置いて放たれた。そして、バフッ、バフッ、バフッと、的に当たる音が連続して鳴り響いた。

「ん!?」

 団長が、その連続した音に異変に気づいた。魔法が的に当たった音が連続で聞こえたからだ。団長の顔には、再び驚愕の色が浮かんだ。

 団長が音の異常に気づき、振り返って確認をした。連続して音が聞こえたのは、おかしい。レイニーが連射など出来るような熟練度ではないはずだ。連射などは、かなり熟練度が必要で、魔術師志望で幼い時から練習を始め、会得できるかどうかというほどの高度な技術なのだ。団長でさえ、うまく連射を放てない技術だった。

「レイニー様、連続音が聞こえましたが?」

 団長は、レイニーに問いかけた。その声には、戸惑いが混じっている。

「あ、うん。うるさかった? ごめんっ」

 レイニーが、申し訳なさそうな表情をして謝っていた。その言葉には、悪意はないが、どこか呑気な響きがあった。

 レイニーは、連続した音を否定をしなかった。「……まさか、連射をされたのですか?」団長は、顔を引き攣らせながら、信じられないといった様子で聞いた。

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